ファミリーマート入店音の楽譜完全ガイド|「大盛況」の正体と弾き方
Robert Spencer
Published Jul 15, 2026
コンビニのドアをくぐるたびに、あのメロディが耳に飛び込んでくる。「♪ちゃらららららーん、ちゃらら〜」——誰もが一度は聴いたことのある、あの音だ。ファミリーマートの入店音は、もはや日本の日常風景そのものに溶け込んでいる。ところが、その正体や楽譜をきちんと理解している人は、意外と少ない。この記事では、ファミリーマート入店音楽の楽譜、ドレミ音階、正式な曲名、作曲の裏側まで、徹底的に掘り下げていく。
「大盛況」——知られざる正式タイトル
まず驚く人も多いだろうが、ファミリーマートの入店音には、れっきとした正式タイトルが存在する。その正式名称は「メロディーチャイムNO.1 ニ長調 作品17「大盛況」」だ。「大盛況(だいせいきょう)」——コンビニのチャイム音にしては、なかなか堂々たる名前ではないか。
作曲当時はタイトル・曲名は存在しなかったが、ファミマ入店音としての人気の高まりを受け、新たにこの正式名称が作曲者自身によって命名された。インターネット上で話題になり、取材を受けた際にはじめて名付けられたというエピソードは、この曲の異色の誕生秘話を象徴している。
作曲者・稲田康氏の意外なバックグラウンド
あのたった数秒のメロディを生み出した人物は誰か。作曲者は京都出身の指揮者・稲田康(いなだ やすし、1949年生まれ)。1970年代に当時の松下電器から嘱託を受け、家電製品のチャイム音調整を担当していた。コンサートで指揮棒を振るクラシックの専門家が、コンビニの入店音を生み出したとは、なんとも不思議な話だ。
稲田さんは現在も指揮者として活動しており、市川猿之助スーパー歌舞伎やオペラのオーケストラ指揮など多方面で活躍されている。そのご本人は、このチャイムについて自ら「冗談で書いたような作品」と謙遜している。世界中のコンサートホールを舞台にする指揮者が、まさかドアホン用のチャイムでここまで知られるとは、本人も予想だにしなかっただろう。
京都芸術大学音楽学部の指揮科を卒業している稲田氏は、ヨーロッパの教会の鐘やウェストミンスターの鐘のメロディを参考にしてチャイム音を作曲した。あの親しみやすいメロディの背後には、西洋音楽の深い教養が隠れていたわけだ。
ファミマ専用ではなかった——パナソニック製ドアホンとの関係
実は、ファミリーマートの入店音はファミリーマートのために作られた曲ではない。この曲は稲田康が松下電器の製品のチャイム音のチェック作業を行っていた際、1978年から1979年の間に発売されたドアホン用チャイムとして作曲された。そのためファミリーマート専用曲というわけではなく、住宅用のインターホンや個人商店、ファミリーマート以外のコンビニエンスストアでも聞くことができる。
ファミリーマートがそのチャイムを使用して全国展開したため、「ファミマ入店音」として定着していった。つまり、あくまでパナソニック製のドアホンを採用したことで、結果的に全国のファミマに広まったというわけだ。「たまに一般家庭でもファミマの音がする」という噂が事実である理由も、これで説明がつく。
一方、ファミリーマートでもサークルKサンクスからの転換店舗では使われない店があるほか、沖縄ファミリーマートでも使用されない店舗がある。全国すべての店舗で統一されているわけではない点は、意外と知られていない事実だ。
音楽的な構造——わずか数秒に込められたストーリー
短いメロディだからといって、音楽的な深みがないわけではない。このチャイムは短いながらに音楽としてのストーリーを持つように工夫してつくられており、優しい音程から始まり、少し冷たい音程を経て、再び暖かい音程で終わるという流れになっている。起承転結を数秒で表現するとは、さすが音楽の専門家だと唸らされる。
コード進行は「Ⅰ→Ⅴ→Ⅴ7→Ⅰ」というシンプルで基本的なもの。メロディーはコードの構成音とその間をつなぐ音でできている。音楽理論的には非常に明快な構成だが、だからこそ誰の耳にも自然に馴染む。シンプルさの中に普遍性が宿っているのだ。
ファミリーマート入店音の楽譜——ドレミで弾くには?
「あのメロディ、自分でも弾いてみたい」——そう思う人は多い。実際、ピアノ、リコーダー、カリンバ、ウクレレなど、さまざまな楽器での演奏が試みられている。まず、ドレミで音を確認してみよう。
メロディは「ラ, ファ, ド, ファ, ソ, ド▲, ド, ソ, ラ, ソ, ド, ファ」という音階で構成されている。原曲はニ長調で書かれているため、ピアノで弾く場合は黒鍵(シャープ)が含まれる。
ピアノ講師による解説では、リコーダーで吹きやすいよう原曲とは高さ(キー)を変えたバージョンや、レ〜高いレまでの1オクターブで弾けてシャープや♭のない簡単バージョンなど、複数のパターンが紹介されている。初心者でも取り組みやすい移調バージョンから始めるのが、挫折しないコツだ。
原曲の音階を正確に表記すると「♪#ファ レ ラ レ ミ ラー ミ #ファミ ラ レー♪」となる。シャープが含まれるため、ピアノ初心者には少々ハードルが高いが、移調すれば白鍵だけで弾けるバージョンも十分に再現可能だ。
楽譜はどこで入手できるか
「ファミリーマート入店音楽譜」を探している人に朗報だ。実はいくつかの正規ルートで楽譜が入手可能になっている。
ヤマハミュージックエンタテインメントホールディングスが出版する「ドレミファソラシドだけで楽しめるメロディ140 大集合 いろいろな楽器で吹けちゃう・弾けちゃう 8音メロディ・ブック」に、「ファミリーマートの入店チャイム」として楽譜が収載されている。鍵盤ハーモニカ、オカリナ、木琴、リコーダー、ミュージックベルなど、さまざまな楽器に対応しており、ドレミふりがな付きなので楽譜が読めない人でも安心だ。
また、動画総再生回数5億回を超える大人気ピアニスト・まらしぃが自ら監修するピアノスコア「まらしぃ marasy piano world X」にも「大盛況(ファミマ入店音)」の楽譜が収載されている。本格的なピアノアレンジを楽しみたい人にはこちらがおすすめだ。
さらに、オンライン楽譜プラットフォームの「Flat.io」では、ファミリーマートの入店音のアレンジ楽譜がユーザーによって公開されており、ブラウザ上で閲覧・演奏確認もできる。初心者から上級者まで、自分のレベルに合ったバージョンを探しやすい時代になった。
YouTubeでも、ファミリーマート入店音の楽譜をもとにしたピアノ演奏からギタータブ譜(Tab譜)まで、さまざまなアレンジ動画が公開されている。耳で確認しながら練習できるので、楽譜と組み合わせて活用するのが効率的だ。
著作権と権利関係——CMや着信音への活用
長らくこの曲の権利関係は曖昧な状態が続いていた。数年前まで権利関係があやふやになっていたが、あらためて弁護士を通じてパナソニックと取り決めを結び直したことで、ファミマのCMを含めいろんな場面でこのメロディが使われることとなった。
2017年のファミチキ先輩登場時からCMに使われているほか、2019年7月より導入されたコード決済「FamiPay」の決済音としても一時期用いられていた。権利関係の整備が、メロディの活躍の場を一気に広げたといえる。
さらに意外な活用例もある。さだまさしが2018年7月に発表したアルバム『Reborn〜生まれたてのさだまさし〜』に「大盛況 〜生まれたてのさだまさし〜」が収録されている。これはNHKの番組にてこのチャイムに合わせて「生まれたてのさだまさし」と歌う小学生が紹介されたことに端を発し、さだもコンサートで観客と合唱するようになったもので、作曲者の稲田およびパナソニックの承諾を得て収録された。ドアホン用チャイムがアーティストのアルバムに収録される——これほど数奇な話もなかなかない。
リコーダー・カリンバ・ウクレレでも弾ける
ピアノだけが選択肢ではない。この曲はそのシンプルな構成ゆえ、多くの楽器で再現しやすい。ウクレレの場合はLow-Gチューニングにすれば原曲に近い雰囲気が出せる。カリンバで演奏する際は、移調したアレンジバージョンがやりやすい。
リコーダーに関しては、小学校の音楽授業でも使えるとして紹介されるケースが増えている。レ〜高いレまでの1オクターブで弾ける、シャープや♭のない楽譜バージョンが子ども向けとして特に人気だ。身近な楽器で日常の音を再現する喜びは、音楽を学ぶ入り口として最適だろう。
なぜこれほど愛されるのか——日本人の心理との関係
稲田さんの仕事が「家電製品の出す音」や「ドアチャイム」という一見無機質なものに音楽として色を与え、聴く人の心に暖かさや冷たさなどをもたらしてきたことが伺える。このストーリー性が、ファミリーマートの入店音がたくさんの人に愛される理由といえるのではないか。
わずか数秒のメロディに「起承転結」があり、聴くたびに安心感をもたらす。そして、子どもの頃からコンビニに通ってきた世代にとっては、記憶と結びついた音でもある。楽譜を手に取り、自分の手でそのメロディを奏でてみることで、また新たな親しみが生まれるはずだ。
まとめ——楽譜から広がる「大盛況」の世界
ファミリーマートの入店音「大盛況」は、単なるチャイムではない。「大盛況(だいせいきょう)」は指揮者・作曲家である稲田康がパナソニックの前身・松下電器からの嘱託で作曲したチャイムで、正式名称は「メロディーチャイムNO.1 ニ長調 作品17『大盛況』」だ。1978年から1979年ごろに誕生したこの曲が、約半世紀を経た今もなお日本全国のコンビニに響き続けているという事実は、やはり驚異的だ。
ピアノ、リコーダー、ウクレレ、カリンバ——どの楽器を使うにしても、ファミリーマート入店音の楽譜を入手し、自分の手で弾いてみることをぜひ試してほしい。ヤマハの楽譜集からオンラインの無料楽譜まで選択肢は豊富にある。あのたった数秒のメロディが、弾けた瞬間にまったく違う意味を持って聴こえてくるはずだ。